「ユズ」(京都ダルク施設長)にインタビュー *2020年5月ビデオ通話にて収録

: ダルクの作品の再演を決める時に、ユズさんに相談したと思うんですけど、その時にユズさんが、「僕二回見せてもらったんやけど、最初、京都ダルクどこ向かってんねん?て思った。でも、ダルクはどこにも向かわんでいい。倉田さんに出会ったことを大事にしたらいい。だから、好きにしたらいいんちゃうか」って言ってくれて。また一方で、「ダルクと関わるのは危険なこともある」ってことも厳しく言ってくれたんやけど、それも肝に命じてやらなあかんって思ってて。 ユズさんのそういう言葉が私のなかですごく残ってるんやんか。

ユズ:はい。

:そういうことも含めて、去年の公演を観てくれた率直な感想があれば。ダルクの施設長としてでもいいし。

ユズ:感想...あんまり覚えてないんですよね。(笑)

:ははははは!!(笑)

ユズ:感想って言ってもえらい時間あいてるから。あれがダルクの日常って言われてもね、日常といえば日常やけどね。

:あれが日常では全然ないけどね。

ユズ:あんなんかなぁ...って、でも、感想って言われてもな、わからんわ(笑)

倉田主催のホットケーキ大会。
倉田主催のホットケーキ大会。

:じゃあさ、覚えてるシーンとかある?

ユズ: よっちゃんがぐだぐだしゃべってたり、タカオが持ち上げられてたり、タイチくんとか、チャルさんのシーンとか、部分部分や全体的な流れはなんとなしに覚えてるねんけど。感想難しいな...。えーと、倉田さんの作品は、ダルクのと、『捌く』の通し稽古(akakilike『捌く』東京公演 2018 )を観た。せやけど、感想って言われると難しいよね。何が言いたいんか、何を表現してるんかは分からへんし。でも、『捌く』に関しては「怖い」って思ったかな。

:へえ、おもしろいな。『捌く』の方が訳が分からんくない?

ユズ:あれは、客観的に観れたんやと思うわ。関わりのないところで意見出来るから。でも、ダルクは自分とこの事やし、感想って言うと難しいな。作品自体を受け取る側に立ってないんやな。

:なるほどね。

akakilike『捌く』東京公演(2018)の稽古場にて。
akakilike『捌く』東京公演(2018)の稽古場にて。

ユズ:発信する側として観てるから。

: 『捌く』が怖いっていうのは、その通りやと思う。言葉じゃなく「なんとなく怖い」って印象を受けるのは、もちろん私がそう仕立ててるからそうなる。でも、 ダルクの作品に関しては私が色合いをつけることを避けてた。私がダルクについて語れることって何もないやん。『捌く』は私のことやってるけど、ダルクは私 がたまたま関わって、知り合ってた人たちのことをやるから。みんなに、怖い印象とか、おちゃらけた印象とか、何かしらの印象をつけることを徹底的に避けたな。それによって依存症者の見え方を操作できちゃう可能性があるから。でも、ダルクの公演を観てわーわー泣いてたお客さんがいっぱいいて。

ユズ:そうやねん...。 

: うちのお母さんは「薬の人らと関わるのやめて」とか言ってたのに、公演見たらめっちゃ泣いてて。公演の後みんなに「うちの娘よろしくお願いします」と言ってて、これ、何なんやろなって。 私は何も操作してないわけやから、多くのお客さんの中に、似たような問題とか、似たような感覚を持った人がたくさんいるってことなんやろなと。

ユズ:だから僕は感想が伝えづらいんやな。

:そうやな。お客さんたちはみんな、何を「良い」って言ってくれてるんかな?

ユズ:お客さんたちは、立場が違うところで見てるからなんやと思う。出てるメンバーはやらされてる感もないし、普段喋ってることやし、普段やってることやし。

:そうやな。

ユズ:だから、僕が観たら「ほんで?」ってなる。舞台を見てるのに舞台になってないんよ(笑)

:…まあ私としては成功してるかも(笑)

ユズ:感想っていうのは、伝える側に伝えたい事があって、受け取るがどう受け取ったかっていうことで。 だから、受け取るも何も、僕は日常を観ただけやから、「え?」ってなる(笑)

: そうやんな。こないだダルクに行った時さ、スターとジャミロさんが舞台のまんまの感じでキャッキャ言ってて。でも舞台上では、「ここではしゃぐ」とか「ここで黙る」とか、段取り決めてたわけで。作品の中での皆の振る舞いは、日常の逆輸入みたいに作ってたつもりやったけど、こないだ日常の中で見たとき、 「あ、これいつもやったわ」て、思ってん。

ユズ:一緒ですよ、ほんま。だから僕にとっては舞台を観に行ったんではなくて、そこにいるお客さんを見て「どこで泣いてんの?」とか「これ泣くとこなんか?」とか(笑)

 

:どっちかっていうと、作ってる側の見方をしてたってことやね。

ユズ:そうやね。

:よかった、正直な感想やと思います。そういうこと聞きたかった。
で、 次は埼玉でやるんやけど、今いるメンバー、まだ会ったことのない人もいるけど、どんどんメンバーが変わっていくやん?前と同じように一人一人話をして、やりたいっていう仲間とやりたい。前の反省も生かしてね。負担もかけすぎたから。その時にさ、こういう事やったらええんちゃう、っていうのがあったら聞きた いんですけど。

ユズ:観る側の僕としては、「作って」もらった方が。作品にしてもらった方がいい。

:作品なんやってば!(笑)

ユズ:僕はそうは観れないんですよ(笑) 

:ふむ。でも、お客さんは泣くやん。

ユズ:だから、僕から見ると「どこで泣くねん」てなるんですよ。

:でもな、ダルクの日常を持って来ただけのように見えてもさ、めちゃくちゃ稽古してんねんで!みんな凄いと思うよ。あんだけ舞台上で素のままでいられる人らなんておらへんで。あんな状態で舞台立つの普通無理やで。

ユズ:だから、普段からおかしいから(笑)

:(笑)でもな、ダルクの公演観た人からな、「役者がすごかった」とか、「セリフがすばらしい」とか言われんねんで。

ユズ:セリフにもなってないでしょ。ぺーさんが言ってることとか普段のままやし。 

:だって「普段みたいに喋って」って言ったんやもん!

ユズ:だから、僕にとっては作品にはなってないんです。お客さんだましてるやん(笑)


:だましてない!(笑)

ユズ:作品化して、ね。

:なるほど。

ユズ:お客さんには舞台になってるわけやん。作品になってるやん。役者になってるわけやん。お客さんにとっては作られてるものになってるわけでしょ。だからあれは、舞台になってる。観てる人からすると。だけど僕は日常を知ってるから。日常と変わってないから。

:(力こぶを出して)日常を舞台に乗っけられるとこが私の技やねんけど(笑)

ユズ:そうそう。

: ダルク来たとき、「もう作品できてるやん」って思ってん。その日のミーティングのテーマに沿って、あんなに自分たちのことを言葉で語れる人らなんて、なかなかおらへんで。セリフでもなく、誰に向けてるわけでもない。自分に向けてるわけでもなく、自分と他者の中間点に向けてるみたいに話すやん。それって私にとってベストな言葉の扱い方やねん。それが日常で出来てるから、びっくりした。普段からセリフっぽ い人もおるけどな。そもそも喋るんがうまいとかさ、ダルク歴が長いとかさ。でも、しゃべるの下手な人はさ、話が生っぽいし、ほんとっぽい。それぞれ良さがある。 

ユズ:なるほどな。 

: タカオなんか、喋るの下手やって自分では言うけど、うまく喋ろうとしない。逆に話がうまい仲間は、話がうますぎて、ほんまに思ってる事をどこかで超えちゃってるとか、そういうのは演劇的にすごくおもしろい。舞台ってそもそも全部嘘やから。セリフだってセリフじゃなくたって、どっちだっていいねん。

ユズ:普段を再現してる、普段からコントみたいな場面があったり、泣ける場面があったり。そこを舞台でやって、泣くところがあるのもわからんではないねんけど、僕から見たら「これで泣くんか」って感じ。

東九条のお祭りでフランクフルトを焼く施設長コンビ。左:ユズ、右:カズ
東九条のお祭りでフランクフルトを焼く施設長コンビ。左:ユズ、右:カズ

:それは、私が私のフィルターでおもしろいと思うポイントを採集して、コラージュしてるから。タケさんのあのキャラとかサトシさんの決めゼリフみたいな喋り方とかさ。私がダルクの日常で見た中で、使いたいと思ったものを集めて、なんかな、ニセ現実、みたいな。

ユズ:ニセではないから(笑)

:ニセにはなってないけど。でも、例えばな、あれを役者がやったらどうなんって話やん。例えば、 よっちゃん役、タイチ役、カズさん役、それを役者にやらしたらどうなるか。それが、ダルクのみんながやるのと一緒になるのか。

ユズ:それをもし観ても、僕の感想としては「ほんで?」って感じやと思う。

:「ほんで何?」っていうのを、言葉や物語性で説明しないってとこ、私はこだわってるから、ほな、それは成功してる。だって、それで何が伝えたいとか、「こういうことをわかってくれ」とかいう表現を舞台に乗っけることは、 私は出来ひん。私が言えることがないから。

ユズ:そういう意味では、成功してるんかもしれへんね。 

:ありがとう。

ユズ:倉田さんの作品自体がそうなんでしょ。観る人それぞれが考えるってことでしょ。

:そう。起承転結とかは何も無い。

ユズ:それが無い中でさ、僕はそれを日常で観てるから、さらに無い。だから「ほんで?」が強いわけよ。

:なるほどなるほど。すげー面白いわ(笑)ありがとうございます。

ユズ:ダルク以外の倉田さんの作品を観たら、感想はあると思う。

:面白いと思うよ。役者やダンサーとやってる作品は、ダルクとはまた違うから。

ユズ:それを見れば感想言えると思う。受け取るもんがあるでしょ。舞台はビデオを再生してるわけじゃなくて、毎回微妙に変化があるし、セリフじゃないってこともわかる。映画とはわけが違うってのはわかった。

:ありがとうございます。で、埼玉に行くんです。お客さんに、俺視点でいいんで何かあれば是非。

ユズ:ダルクはこんな人たちなんで。まあ、だから、どんな作品が出来上がるか分からんけど。作品じゃ無い作品やろし(笑)

:それあんま言わんといてや(笑)はい、最高の褒め言葉です。

ユズ:コンテンポラリー、っていうものを倉田さんの作品で初めて知って。これは何?って思って。 『捌く』の通し稽古の時に初めて観て、自由に観ていい、自由に受け取っていいっていうことが分かったから、今回のも自由に受け取って観てもらえたらいいと思います。

:ありがとうございます。



【再演】

akakilike『眠るのがもったいないくらいに楽しいことをたくさん持って、夏の海がキラキラ輝くように、

緑の庭に光あふれるように、永遠に続く気が狂いそうな晴天のように』

日程|2020年12月 上演予定

会場|富士見市民文化会館 キラリ☆ふじみ(埼玉)